今、米国の個人投資家の間で、株式投資でも暗号資産（仮想通貨）でもない、「第3の取引」が爆発的な盛り上がりを見せています。それが、現実世界の出来事の結末を売買する「予測市場（Prediction Markets）」です。

かつて「ゲームストップ株騒動」で個人投資家の力を世界に見せつけたロビンフッド（Robinhood）。同社が2024年に予測市場への参入を発表すると、市場の熱気は一気に加速しました。米国大統領選から連邦準備制度（FRB）の金利政策、さらにはグラミー賞の行方まで。「ニュース」そのものが取引対象となるこの新時代は、単なるギャンブルの延長線上にあるのでしょうか？

本記事では、ロビンフッド躍進の背景にある「予測市場」のメカニズムを解剖し、なぜこれほどまでに米国人が熱狂しているのか、そしてその熱狂が持続可能なのかを深掘りしていきます。

なぜロビンフッドは「予測市場」に舵を切ったのか？

ロビンフッドの躍進は、常に「金融の民主化」という旗印の下にありました。これまで予測市場は、Polymarket（ポリマーケット）のような分散型プラットフォームや、Kalshi（カルシ）のような新興企業が主導してきましたが、ロビンフッドが参入した意味は極めて大きいです。

特に2024年の米国大統領選においては、世論調査よりも「予測市場の価格」の方が正確に情勢を反映しているという議論が巻き起こりました。これをきっかけに、予測市場は単なる「遊び」から、信頼性の高い「情報インフラ」へと格上げされたのです。

米国人が「熱狂」する3つの心理的背景

1. 「群衆の知恵」への参加感

「テレビのコメンテーターよりも、自分のお金を賭けている群衆の方が真実を知っている」という信念が広がっています。自分の知識や分析を市場で試し、正しさを証明することに快感を覚えるユーザーが増えています。

2. 株式市場への閉塞感の打破

S&P500などのインデックス投資は安定していますが、結果が出るまで数年、数十年の時間がかかります。一方で予測市場は、数日〜数ヶ月という短期間で結果が確定するため、スピーディーなリターンを求める層を惹きつけています。

3. ゲーミフィケーションの進化

ロビンフッドが得意とする「ゲームのようなUI/UX」が、予測市場と抜群に相性が良いのも理由です。スマホを数回タップするだけで、世界の運命に1ドルから賭けられる手軽さが、若年層の熱狂を支えています。

持続可能性への疑問：この熱狂は続くのか？

ロビンフッドの株価を押し上げ、多くの話題をさらっている予測市場ですが、その「持続可能性」については慎重な見方も存在します。

規制の壁と法的リスク

米国では、予測市場は商品先物取引委員会（CFTC）の監視下にあります。過去には、選挙への賭けを禁止しようとする動きもありました。法的な枠組みが確立されなければ、プラットフォームが突然停止するリスクもゼロではありません。

流動性の「選挙依存」

現在の熱狂の多くは、2024年の選挙という巨大なイベントに依存しています。選挙が終わった後、日常的なトピック（経済指標、天候、エンタメ）で同様の盛り上がりを維持できるかどうかが、持続性の最大の鍵となります。

市場操作への懸念

資金力のある個人や団体が、特定の方向に市場価格を操作しようとする試みも報告されています。「群衆の知恵」が「クジラの意図」に書き換えられてしまうと、情報の信頼性は失墜します。

結論：私たちは予測市場とどう付き合うべきか

ロビンフッドの参入は、金融市場が「資産の所有」から「情報の正誤」へと、その価値を広げつつあることを示唆しています。予測市場は、単なる熱狂的なブームで終わるのではなく、既存の金融システムを補完する「新しいリアリティ・チェック（現実確認）ツール」として定着する可能性が高いでしょう。

しかし、個人投資家として忘れてはならないのは、これが「非常に高いボラティリティ」を伴うゼロサムゲームであるという点です。ニュースを深く読み解き、自らの予測スキルを磨く場としては最適ですが、資産の大半を投じるのは禁物です。