2024.05.20
「景気がいい」って本当?
GDPの正体と、私たちの「見えない労働」が経済指標から消える理由
ニュースで毎日のように耳にする「GDP(国内総生産)」。でも、それが自分の財布や暮らしにどう繋がっているか、説明できる人は意外と少ないものです。今日は、この巨大な指標の裏側に迫ります。
「株価は上がっているけれど、スーパーの買い物は高くなるばかり……。結局、景気っていいの?悪いの?」
そんな風に感じている方は多いはずです。国の経済力を測る物差しであるGDP(国内総生産)は、一見すると「どれだけ儲けたか」の数字に見えますが、実はそこには大きな「落とし穴」があります。
【図解】1分でわかる!GDPの組み立て式
GDPに入るもの(市場取引)
個人消費
食料、家電、旅行、外食など
企業の投資
工場の建設、ITシステムの導入など
政府の支出
道路建設、教育、行政サービスなど
純輸出
輸出額から輸入額を引いたもの
GDPに入らないもの
家庭内の家事・育児
無償の労働は経済価値として計算されない
ボランティア活動
社会に貢献していても「価格」がつかない
中古品・フリマの個人売買
「新しく生み出した価値」ではないため
自然環境の豊かさ
空気や森林の価値はカウント外
GDP =「お金が動いた」ことによって生まれた「新しい付加価値」の合計
1. GDPとは「日本というお店」の1年間の売上利益
GDP(Gross Domestic Product)は、日本語で「国内総生産」と言います。難しく聞こえますが、一言で言えば「日本という国の中で、1年間に新しく生み出された儲け(付加価値)の合計」のことです。
例えば、パン屋さんが100円の小麦粉を仕入れて、300円のパンを焼いて売ったとします。このとき、新しく生み出された「200円」の価値がGDPにカウントされます。このように、日本中のあらゆるサービスや製品の「儲け」を全部足し合わせたものが、国の経済力とされるわけです。
「名目」と「実質」の違いを知れば、ニュースの嘘が見える
最近「GDPが過去最高を記録!」という景気のいいニュースを見かけませんか? でも、私たちの実感はそれほど良くありません。その理由は「名目GDP」と「実質GDP」の違いにあります。
- 名目GDP: その時の価格で計算したもの。物価が上がれば、中身が同じでも数字は増えます。
- 実質GDP: 物価変動の影響を取り除いたもの。本当に「モノやサービスが増えたか」を示します。
今の日本は、モノの値段が上がっているため名目GDPは膨らんでいますが、私たちの買い物の量はそれほど増えていない(あるいは減っている)ため、実感としての景気が悪く感じられるのです。
2. なぜ「家事」はGDPに含まれないのか?
ここからが今日の本題です。GDPには大きな矛盾があると言われています。それは、「家族のために行う家事や育児」が1円もカウントされないという点です。
有名な経済のジョークを紹介しましょう:
「ある経済学者が自分の雇っていた家政婦と結婚した。すると、それまで家政婦に給料を払っていた時にはGDPに含まれていた彼女の労働が、結婚して『妻』として同じ家事を行うようになった途端、GDPから消えてしまった。その結果、国のGDPは減少した。」
同じ掃除、同じ料理、同じ育児。やっていることは全く同じなのに、外注すれば「経済活動」になり、家庭内でやれば「ゼロ」になる。内閣府の試算によると、日本の無償家事労働を金額に換算すると年間約100兆円にも上ると言われています。これは日本のGDPの約2割に相当する巨大な数字です。
なぜ統計から外されているのか?
理由は主に3つあります。
- 市場で取引されていない: お金のやり取りがないため、「客観的な価格」をつけるのが難しい。
- 生産と消費が同時: 自分で作って自分で食べる行為は、国の生産統計として把握しづらい。
- 国際基準(SNA): 世界共通のルール(国民経済計算)で「家事は含めない」と決められているから。
3. GDPだけでは「幸せ」は測れない
GDPが増えることは、国が豊かになるための一つの目安ですが、それが必ずしも「国民の幸福」とイコールではありません。
例えば、大きな事故が起きて、車の修理代や入院費がかさめば、皮肉なことにGDPは増えます。逆に、近所で子供を預け合ったり、野菜をお裾分けし合ったりする「助け合い」が盛んになると、市場での取引が減るためGDPは減ってしまいます。
つまり、GDPは「どれだけお金が回ったか」を測る物差しであって、「どれだけ私たちが満たされているか」を測るものではないのです。
4. 私たちがニュースを読み解くための「解決策」
ニュースで「GDP成長率」という言葉を聞いた時、私たちはどう向き合えばいいのでしょうか? 専門家として、3つの視点を提案します。
「実質」をチェック
名目の数字に惑わされず、物価上昇を引いた「実質」が伸びているかに注目しましょう。
消費の内訳を見る
GDPの約6割は「個人消費」です。私たちの買い物が冷え込んでいないかを見ることが重要です。
数字の外側に目を向ける
家事、育児、介護など、GDPに載らない「ケア」が社会を支えていることを忘れないようにしましょう。
おわりに
GDPはあくまで「経済というゲームのスコア」に過ぎません。スコアが高ければ嬉しいですが、そのゲームのルールが「家庭内の無償の努力」を無視していることも事実です。
次にあなたがニュースで「GDP」という文字を見かけたとき、「ああ、これはお金が動いた分だけの話だな。私のこの夕飯作りは、数字にはならないけれど、確かにこの国を豊かにしているんだ」と、少し誇らしく思ってみてください。
経済を知ることは、私たちの暮らしを定義し直すことでもあります。数字の裏側にある本当の豊かさを、一緒に考えていきましょう。



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